貴重な体験

いつも通りに休日午前中の惰眠を貪っていたところ、来客を告げるチャイムがけたたましくたたき起こしてくれた。玄関へ出てみると隣の部屋の住人であるところの中年女性が。
曰く、外出から帰ってきて玄関ドアの鍵を開けたが、なぜかドアガードがかかっていてドアが開けられないという。私への用件というのを聞いてたまげた。
「ベランダから入って中からドアを開けて欲しい」
気は進まないが引き受けて、ベランダの柵によじ登って外壁伝いに隣のベランダへ侵入した。端から見ればどう見ても不法侵入だ。しかし、ベランダの窓にもちゃんと鍵がかかってて部屋へは入れない。玄関まで戻ってそう伝えると、「大家に相談してみます」と言ってその場は終了。
目が覚めてしまったので、そのまま時間をつぶしていると、そのうちまたチャイムが鳴るので出てみる。今度の依頼はさらに過激だった。
「ベランダ側の窓を破って中からドアを開けて欲しい」
正直ドン引きしたが引き受けて、今度はハンマーと貫通ドライバーをエモノに携えて再び外壁伝いに隣のベランダへ侵入。ドライバーを立ててハンマーでがっつんがっつん殴る。端から見ればどう見ても犯罪だ。しかし、驚いたことにまったく歯が立たない。表面にかすかに傷が入る程度で割れる気配すらない。ここの窓ガラスは金網入りの立派なやつなので、割ることができても鍵を開けるのは難しそうだと思ってたが、そもそも割れない。もう事情を知らない人が見たらどう考えても通報する位の勢いで叩きまくったが、結局ガラスの表面に小さな凹みを作るのに成功しただけとなった。
玄関まで戻ると、大家を始めほかの住人も集まっててえらい騒ぎになっていた。大家含めて5世帯の内、4世帯の住人がウチのというか隣の玄関の前で途方に暮れるという異常事態。割れなかったと伝えると、大家が誇らしげに「防犯ガラスだから」という。確かにすごいが自慢してる場合じゃないだろ。
私が器物破損を試みてる間にドアを引っ張りまくったらしく、ドアガードが触れるくらいにドアが開くようになったらしい。それまではドアガードすら見えてなかったのでドアガードそのものをどうにかするという手が使えなかったのだが。この頃には「錠前屋を呼んでなんとかしよう」という話になりかけてたが、ドアの隙間に手が入る状態だったし、器物破損未遂のエモノの貫通ドライバーを持ってたので、手を突っ込んでドアガードそのものを外してしまう事にした。これも簡単じゃなかったんだけど、ビスを3本外してなんとか成功。一件落着した。
行儀良く真面目に生きてきたので、夜の校舎窓ガラス壊して回ったりしなかったし、そもそもガラスを割るつもりで叩いた事なんて初めてだったが、防犯ガラスとやらがあんなに頑丈だったとは知らなかった。
そんだけ。